MIKKE RESEARCH — 制度詳解
制度詳解|不正防止と税関確認の仕組み
v1|2026年8月3日|基礎ノートv4の深掘り編。一次資料(国税庁パンフレット・観光庁特設ページ/FAQ)の原文引用付き
梱包という「物理防御」を捨て、パスポート紐付けデータ × 選別検査の「データ防御」へ。
手続きは出国時に1回、清算はレシート単位、小口の漏れは意図的に許容。
大口の組織的転売を確実に潰し、小口(お菓子1袋食べた等)は検査コストに見合わないので事実上黙認する設計。
1. 全体フロー — 国税庁イメージ図の8ステップ
国税庁パンフレット1ページ目のイメージ図に付された番号どおり。旅券番号が全体を貫く主キーになっている。
- 旅券の提示等 — 店頭でパスポート確認(この時点で購入記録が旅券番号に紐付く)
- 税込価格(課税)で販売 — 店頭での値引きは消滅。全員から一旦消費税を徴収
- 購入記録情報の提供・保存 — 店が国税庁「免税販売管理システム」へ送信
- 購入日から90日以内の出国時に旅券等の提示 — 空海港のキオスク端末へ
- 税関の確認・検査 — Green/Red判定。Redのみ現物検査(§3)
- 確認結果の登録 — 税関確認情報がシステムに記録される
- 店が税関確認情報を取得・保存 — これが免税適用の法的要件
- 免税成立 → 返金 — 店(または委託先)が旅行者へ消費税相当額をリファンド
出典: 国税庁「輸出物品販売場制度はリファンド方式に移行します」(令和7年4月・
PDF) 1ページ目
「免税店を経営する事業者は、購入記録情報と持出しを税関が確認した旨の情報(税関確認情報)を保存することで、免税の適用を受けることとなります。」「免税店を経営する事業者は、この確認後に免税購入対象者に消費税相当額を返金(リファンド)することとなります。」
2. 詳解① 購入記録のパスポート紐付け(免税販売管理システム)
基盤は2021年10月から稼働している免税販売の完全電子化システム。免税店は販売のたびに「購入記録情報」(品名・単価・購入日・旅券番号など)を国税庁の免税販売管理システムへ送信する義務があり、リファンド方式はここに「税関確認結果の書き戻し(上図⑥⑦)」を追加した拡張形。API仕様書・コード表・サンプルデータが国税庁サイトで公開されており、POSベンダーはこれに沿って改修する。
2-1. 送信ルートは2択 — 「承認送受信事業者」レイヤーの誕生
| ルート | 内容 |
| 自社送信 | 免税店が自らシステム接続して購入記録情報を送信 |
| 他社送信 | 「承認送信事業者」(POS・免税システムベンダー等)経由で送信。リファンド方式では「承認送受信事業者」となり、送信に加え税関確認情報の受信・店へのフィードバック、さらに返金業務の受託まで担い得る |
出典: 国税庁パンフレット(同上) 4ページ目「免税購入対象者への返金手続」
「免税購入対象者への返金手続については、免税店を経営する事業者自らが行うほか、承認送受信事業者等にその返金手続を委託するといった方法が考えられます。」「返金方法については、例えば、銀行振込や、クレジットカード送金、アプリ送金、税関確認を受けた出国港内での現金による返金といった方法が考えられます。」
承認送信事業者には「店舗と税関・空港をつなぐ橋渡し役」として、店舗で登録された購入記録情報を正確かつ速やかに国税庁システムへ送信すること、税関側の確認結果を取得し店舗システムにフィードバックすることが期待される(要旨)。
2-2. 高額品は「商品情報詳細」が必須 — すり替え対策
単価100万円(税抜)以上の商品は、品名だけでなく商品を一意に特定できる情報の登録が必須になる。検査時に「同型の別物を見せる」すり替えを困難にする効果がある効果の解釈は当方。
出典: 国税庁パンフレット(同上) 3ページ目「購入記録情報として提供する項目の見直し」
「単価100万円(税抜価額)以上の商品を販売した場合、商品の属性に応じ、次の事項を組み合わせて『免税対象物品を特定するに足りる事項(商品情報詳細)』を提供することとされます(必須項目)。✓ 免税対象物品の具体的な名称、ブランド名、型番号、形状若しくは色彩等の特徴又は鑑定書(鑑別書)若しくは保証書付きである旨 ✓ シリアル番号の付された腕時計のような商品は、上記の事項に加えそのシリアル番号」
併せて「商品分類」「販売場名称(英語表記)」が任意項目として追加。ただし商品分類は実質準必須──品名から商品を特定できないと旅行者側が税関確認を受けられない(=還付されない)リスクを店が作ってしまう。
出典: 国税庁パンフレット(同上) 3ページ目・注
「『商品分類』は任意項目とされますが、『品名』欄等からその商品を特定できない場合、法令上の提供項目である『品名』が設定されていないものとして、免税購入対象者が税関の確認を受けられない可能性があります。」
2-3. データ品質への統制 — 店側へのプレッシャー
出典: 国税庁パンフレット(同上) 3ページ目
「免税販売手続電子化未対応の免税店(令和8年10月31日までに『購入記録情報の提供方法等の届出書』が未提出の免税店)については、令和8年10月31日をもって免税店許可の効力を失うこととされます。」
出典: 国税庁パンフレット(同上) 4ページ目「その他の見直し」
「免税店の許可取消要件に、購入記録情報に不備又は不実の記録があることなど『税関長の確認に支障があると認められる場合』を追加」
3. 詳解② Green/Red判定(リスクベースの税関確認)
出国時、国際線出発ロビーのキオスク端末にパスポートをかざすと、システムが旅券番号でその人の全購入記録を照会し、画面に検査要否を表示する。「グリーン判定」「レッド判定」は観光庁の公式用語。
「免税の適用を受けるためには、免税対象物品の購入日から90日以内に、出国時に空海港に設置された免税手続用の端末(キオスク端末又は電子端末)へパスポートを提示し、税関確認を受ける必要があります。」「パスポート提示後、免税手続用の端末の画面上に、税関検査の要否判定が表示され ・検査が不要と判定された場合(グリーン判定)、税関確認の手続は終了となります。・検査が必要と判定された場合(レッド判定)、税関の検査場所で免税対象物品の持出し確認を受けます。」
| 項目 | 内容 |
| 手続き回数 | 出国時に1回。パスポートスキャンで全レシートをまとめて照会。紙のレシート自体は手続きに不要 |
| 所要時間 | 端末での手続きは「数秒程度」観光庁FAQの記載(要旨) |
| Green判定 | その場で税関確認終了。あとは店(または委託先)からの返金を待つ |
| Red判定 | 税関の検査場所で現物の持ち出し確認。1つでも欠けるとそのレシート全体が確認不可(§4) |
| 主要7空港 | 成田・羽田・関西・中部・福岡・新千歳・那覇はキオスク端末に加えVisit Japan Web経由の手続きも予定観光庁の案内(要旨) |
| 判定基準 | 非公表。「高額・大量購入・履歴等がリスク要素になり得る」は当方の推測であり公式情報なし推測 |
3-1. 預け荷物はチェックイン前に税関確認 — 動線の要注意点
免税品を受託手荷物(預け荷物)に入れる場合、預けた後は現物を見せられないため、チェックイン前に税関確認を完了させる動線になっている。Red判定が出てから荷物を引き戻すことはできない。
「手荷物の機内預け入れ前までに税関での確認手続を完了する必要があるため、早めに空海港に到着し、手続を行ってください」
出典: 同上(観光庁 旅行者向けFAQ)
Q「免税手続用の端末(キオスク端末又は電子端末)でレッド判定(検査が必要と判定された場合)が出た場合、受託荷物を引き戻して免税手続をすることは可能でしょうか。」— A「一度預けた受託手荷物を引き戻すことはできません。」
4. 「1レシート連帯責任」ルール — 清算の単位
検査で効いてくる最重要ルール。税関の確認は購入記録情報(=一の販売単位・レシート単位)ごとに行われ、そのレシートに含まれる物品を1つでも所持していなければ、そのレシート全体が確認不可=全額還付なし。ただし他のレシートは無傷。
出典: 国税庁パンフレット(同上) 1ページ目・注2
「税関の確認の際に、同一の購入記録情報(一の販売(領収)単位)に含まれる免税対象物品のうち、一つでもその物品を所持していなかった場合には、その購入記録情報に含まれる全ての免税対象物品について、その確認を受けることはできません。」
出典: 観光庁 旅行者向けFAQ(同上)「免税手続きをした商品のうち、一部を消費してしまいました」への回答
「1回の購入手続(レシート等)単位に含まれる免税対象物品のうち、1つでも所持していない場合には、当該レシートに係る他の免税対象物品についても税関の確認を受けられず、当該レシートに係る消費税相当額が返金されません。」
「税関での確認は、購入記録情報を単位として行われます」
| レシート | 出国時の状況 | 結果 |
| A店: 化粧品3点 | 3点とも所持 | 確認OK → A店分は全額還付 |
| B店: お菓子5点 | 1点消費してしまった | 確認NG → B店分は5点全部還付なし |
| C店: 時計1点 | 所持 | 確認OK → C店分は還付 |
手続きは1回(パスポートスキャン) / 清算はレシート単位「レシートを1枚ずつ端末に通す」のではない。1点消費の道連れは同一レシート内に限定される。まとめ買い=1レシート化はリスク範囲を広げる、という旅行者側の注意点も
※ Red判定が「人単位」(検査場で全レシート分を見る)なのか「特定レシートの狙い撃ち」なのか、粒度は公式資料に明記なし。導入後の運用待ち。
5. 残る穴 — Green判定と小口の漏れ
上記のレシート連帯責任ルールはRed判定で現物検査を受けたときに初めて発動する。Green判定=検査なしなので、実際には国内で消費済みでも端末を通れば還付されてしまうケースは構造上防げない。これは制度の欠陥というより検挙の経済学に基づく割り切り:
| 不正の類型 | 新制度での耐性 | 理由 |
| 組織的な大量購入→国内転売(旧制度の主戦場・億円規模) | 高い | 購入金額・頻度・履歴が旅券番号に全部紐付く → リスク判定でRedに振られやすい判定ロジックは非公表・推測 |
| 小口の消費(お菓子を食べた等)+Green通過 | 漏れる | 検査コスト > 損失額。事実上黙認する設計 |
それでも「Greenで通ったから合法」ではない。法的な担保は用意されている:
出典: 国税庁パンフレット(同上) 4ページ目「その他の見直し」
「税関の確認を受けた免税対象物品を遅滞なく輸出しなかった場合の罰則規定の創設や税関による即時徴収規定の整備」
旧制度との比較で見ると: 旧制度は特殊包装が自力で開封できてしまい、出国時チェックも事実上素通りで「小口も大口もザル」だった。新制度はデフォルトで税金を預かっておき、大口だけ狙って検査する方式への転換。小口の漏れは残るが、被害の主戦場だった組織的転売への耐性は大きく上がる。
移行期間はゼロ — 2026年11月1日に一斉切り替え国税庁パンフレット4ページ目: 「現行制度とリファンド方式を併用する移行期間はありません。」導入直後は旅行者・店舗・税関とも不慣れな混乱期になる
6. 未決の論点(公式情報が無い部分)
① Green/Red判定の基準 — 完全非公表。「高額・大量・履歴」は推測にすぎない。導入後にSNS等で実測報告が出始めるはずで、コンテンツネタとしても監視対象
② Red判定の粒度 — 人単位か、レシート狙い撃ちか。検査場のオペレーションは未公表
③ 返金の標準リードタイム — 法令はルールを定めず店(委託先)任せ。「返金がいつ来るか分からない」不安はアプリの介在余地そのもの
④ 空港キオスク端末の台数・配置 — ピーク時のボトルネック度合いは端末数次第。主要7空港のVisit Japan Web対応がどこまで分散に効くか